金魚

2006年7月19日 つくりばなし
人間じゃなくて、たとえば金魚だったらよかったのかもしれない。金魚鉢にいれられて、玄関に置かれて、あなたが出かけるときとあなたが帰ってくるとき、心のなかで「おかえりなさい」と呟くような金魚だったら。わたしの望みはすべて叶うだろう。金魚だったら、あなたのそばで呼吸をし、あなたのそばで眠り、あなたのそばで死んでいくことができる。金魚がちょうどいい。それも、金魚すくいで一匹もとれなくてお店のおじさんがお情けでくれたような金魚が。あなたはやさしいから、生き物が死ねばきっと哀しんでしまう。でもたいして思い入れもない金魚なら、あなたの哀しみも少なくてすむだろう。

あなたを独り占めしてしまうあの子が、うらやましくないと言えば嘘。でも、まだわたしの望みは叶わないと決まったわけじゃない。
口の前に人差し指を立てて、自分自身を戒める。あなたのそばで呼吸をし、あなたのそばで眠ったこともある。叶えたい望みはあとひとつ。
わたしは金魚になれないからあなたを哀しませてしまうかもしれないけれど、それは許してもらうことにしよう。あなたは優しいから、きっとわたしのわがままも受け入れてくれる。

さよならをして永遠になろう。
わたしはもうすぐ、永遠にあなたを泳ぐ金魚になる。

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